COLUMN
SWX総研
今年も残すところ2ヶ月になりました。
2020年から3年間続けてきたこちらのコラムも、年内で連載を終了することにしました。
それは「シフトワーカーエクスペリエンス(SWX)」という考え方が啓蒙段階を終えて、ビジネスとして実装する段階に達したと思ったからです。実際に“店舗運営に「SWX」を取り入れたい”と考えていただけるお客様との取り組みを通じて、実効性と再現性のあるソリューションであることを証明していく段階だと考え、そのために思いっきり自分の時間を使いたいからです。
まず、私たちが掲げる「シフトワーカーエクスペリエンス(SWX)」についておさらいしましょう。
私は前職の組織人事コンサルティング会社で、企業と従業員の関係性を改善し、モチベーションを高めることで企業の本質的な競争優位性を獲得するお手伝いをしてきました。2003年入社当時は、社員のモチベーションを重要視する企業は無いに等しく「モチベーション」という言葉も一般的ではありませんでした。しかし一貫した啓蒙活動と具体的なコンサルティングの成果によって「企業経営において最も大切なことは、社員のモチベーションを高め続けること」という考え方が多くの企業に受け入れられたと感じています。
その一方で、この考え方は主に“ホワイトカラー”と呼ばれる、オフィスワーカーの多い企業における話であり、いわゆるシフトワーカー(シフト勤務の方々)や非正規雇用者を多く抱えるサービス業界には浸透していないとも感じていました。そこで図1のように、CXからEX、そしてその先の領域として「シフトワーカーの仕事体験価値の向上(=Shift Worker Experience:SWX)」が必要であると考えました。シフトワーカーの方々のエンゲージメントを高めることで生産性向上が実現する。そして、サービス業の生産性向上と待遇改善が、これからの日本においての最重要課題と捉えています。
サービス業界には、長らく「チェーンストア理論」という前時代的なマネジメントの考え方が残っており、上位下達の組織文化や「本部が”頭”・店舗は”手足”」と揶揄されるようなマネジメントが横行していました。それにより従業員の仕事の体験価値は他業界と比較して圧倒的に低く、離職率の高い状態が続いています。当然、従業員のための教育投資もされないため、結果的に生産性も高まらないという悪循環を繰り返しているのです。
「チェーンストア理論」が有効だったのは、店舗数が少なく、競争も無いような1980-2000年初頭までだったと考えられます。「現場に考えさせず、本部が決めた戦術を作業化した効率重視のマネジメント」は素早く店舗拡大するのに好都合なモデルです。
しかし2000年代に入り、各社が出店を加速した結果、オーバーストア状態になっていきます。また消費者の欲求レベルも高度化・多様化し、大量生産・大量消費型のマス対応商品が売れない状況になっていきました。このように、オーバーストアで消費者のニーズが高度化・細分化されると、本部主導の「全国一律の戦術」は効果がなくなってくるのです。
複数の店舗がひしめく商圏内でお客様の争奪戦ということになると、店舗が「考えなくて良い」というマネジメントでは、競争相手に勝つことができません。さらにECの勃興によって、細分化された消費者ニーズにAIによる推奨品の提供が可能になると、店舗は太刀打ちできなくなってしまったのです。
これが私の思う「チェーンストア理論の限界」です。
今後はさらに、労働力人口が圧倒的に不足する時代に突入していきます。(図2参照)
省人化運営を進めることは重要ですが、それと同時に“働き手にとって魅力ある企業”を作っていかなければなりません。これまでのように「店舗従業員は”作業者”であれば良い」という考え方では「キャリア形成ができない」と従業員が定着せず、そのような魅力の無い企業経営であれば採用も困難になってしまいます。
成長の源泉である「人材」から見放されてしまえば、「企業」も存続することができません。
このように労働市場の圧力も加わり、店舗で働く「シフトワーカーの仕事体験価値の向上」と持続的にキャリア形成ができる組織運営に移行することに真剣に向き合う必要性があるのです。
このような大きな環境の変化があり、SWXの必要性は高くなってきているのです。
次回に続く