COLUMN
SWX総研
今回のテーマは、マクロ環境変化を捉えた「DX投資」の重要性について考えてみます。
商談等を通じて最近思うことは、「安易なDX投資」判断が進んでいるということです。
DX推進部やグループが誕生し、何らかの結果を早期に見せる必要があるという理由から、安易にITツールを導入することが散見されます。いわゆる、導入することが目的になってしまうという危機感です。もう一度、DXを推進する立場の人は、企業における「投資」とは何かを考えてみる必要があります。
重要なのは、ITツールを選択することが目的ではなく、中長期にどんなリターンを会社にもたらすのかという視点です。投資という視点は、今後起こる環境変化に適応するために、自社がどのような課題を克服し、リターンを得るかです。よって、中長期的に「どのようなリターン」を得たいのかを考える必要があります。そこで、紹介したいのが自社にとってのマクロ環境変化(PEST分析)を考えてみることです。
日本の構造的な変化は、これから(3-5年レベル)どのような影響を与えるのか?(PEST分析)
マクロ環境分析(PEST)とは以下のような視点で考えることだと思います。ぜひ、投資判断する場合の観点に活用していただきたいと思っています。
Political:個人情報の規制の強化、最低賃金の継続的な上昇
ビジネスを規制する法律や政治動向はどうなるのかを考える視点になります。
店舗サービス業の取り巻く環境において、個人情報の管理規制は圧力を増して来ると考えられます。
HP等のクッキー問題はWEB販促において大きな影響を受けることになり、店舗でのAIカメラの活用(顔画像活用)も規制が強まるので、クラウド上に顧客等の顔情報を保有しないで、AIカメラを使うことが求められるようになります。このような法律の規制はビジネスに大きな影響を与えます。
また、先進国各国との給与水準の格差が大きく開いてきていることや、デフレ脱却は日本の大きな課題でもあります。
この文脈では、最低賃金の上昇は継続することになるでしょう。この賃金上昇も経営を考える上では、大きなインパクトになると考えます。
Economical:ECとリアル店舗の融合施策、SDGsの取り組み
経済の水準、所得等の変化はどうなるのかを考える視点になります。
今後もワクチン接種を加速させる施策が実行されていき、来年の春以降サービス業のビジネス活動はようやく復調の兆しが見えてくると思います。
内需が持ち直していくことで、雇用も回復し、経済の水準も少しずつ良くなってくると考えます。また、コロナによって起こされたECとリアル店舗の融合は不可逆的な形で進むことになります。消費者は自分がしたい時に買い物をし、手元に届くことが求められます。
よって、ECとリアル店舗の相互補完的な体験価値の提供はMUSTになると思います。特にリアル店舗の価値をどう定義して、変化させるかは大きな経営テーマになります。店舗の体験価値の定義、それによる従業員の役割変化、行動の変容、評価など大きく変化することになると思います。
また、世界的には環境規制に対する取り組みが強く求められるようになり、SDGsへの取り組みが企業の評価を決めることになります。脱炭素での環境保全に留まらず、仕事のやりがいと経済成長の一致や、不平等の解消などの取り組みは必須になってくるでしょう。
Social:生産年齢人口の減少、意味的価値の提供
人口動態や消費者の価値観等の変化はどうなるのかを考える視点です。
日本は少子高齢化による生産年齢人口減少が顕著になり、特に地方の人口減少は、目立った形で社会生活や経済に影響を与えていくことになります。人手を確保するために働きやすい環境を整備することやエンゲージメントを高める施策は今よりも必要となります。
また、ミレニアル世代、Z世代等が消費の中心を担うことになり、単に値段が安い商品・サービスよりも、商品やサービスに意味があることが求められます。商品サービスを購入してもらうには、意味づけやストーリーが宿ることが必要になり、その語りべは従業員が担うことになります。従業員は、販売員からブランドアンバサダーや専門知識を持って、買い手の課題を解決する役割が求められるようになるでしょう。また、人口の減少は購買個数や来店客数を減少させていくことになり、企業は付加価値を高めた商品・サービスを開発、販売ができることが求められます。
Technological:人のソフト力を高めるための機械化、デジタル化、AI活用
テクノロジーの進化がどのような影響を及ぼすかという観点です。
デジタル技術の発達と進化はより進みます。特に通信速度のさらなる高速化やAI分析の精度は進化し、全てのモノが通信とつながる形でデータを取得し、そのデータをAIが分析、ネットワークで接続された機械や人に指示を出していくような社会はさらに近づくと考えます。
よって、データドリブンな経営による競争優位を見出していくことが急速に求められることになるでしょう。そのため、データを持たない企業は競争力を失うことになると感じています。また、人間型ロボットの研究もさらに進むことになり、5年後には肉体労働的な部分にはロボットが多く取り入れられているでしょう。人の仕事は、より「ソフト力」を求められるようになり、人が創り出す「感情」「感性」「情緒」「やる気」等、ソフト力を生み出すためのIT導入が求められ、それ以外の分野にロボットや機械、AIが取り入れられていくことになると思います。
このように、マクロ環境変化を見据えた時に、店舗サービス業は店舗の意味を捉え直し、今の延長線上には無いことを理解しつつ、DX投資を判断することが求められます。単なる業務効率化という謳い文句や事例に踊らされるのではなく、自社として中長期的に競争優位をどう築いていくのかが重要です。
今後の流れとしては、ECとリアル店舗の融合施策、リアル店舗がソフト力で「付加価値」ある商品・サービスを開発・販売できるようにするために、「従業員が持つ顧客ニーズを吸い上げる、それを横(店舗内・外)に即時に展開する」DXツールは不可欠となります。単に本部からの指示を発信するだけのツールではなく、店舗から本部へ(下から上)、店舗から他の店舗へ(横―横)情報を展開するなど、コミュニケーションを双方向にすることが求められます。その実現には、従業員一人ひとりがITで繋がっている必要が出てきます。
また、店舗での体験価値を高めるために、従業員の戦力化が必要です。知識や技術の獲得を促進することや、やる気の向上を促進するためのDX。また、働きやすい環境を整えて離職者を減らし、労働力不足に対する対応するDXなどが投資対象となると思います。
さらに、引き続き最低賃金は上昇をしていきます。それによって人を減らすという発想だけではなく、その分、人の価値を高めていくという発想も同時に必要です。よって、業務効率化を進めて省人化や人がやらなくても良い仕事を機械化、デジタル化しつつ、人の価値を最大化するための「知識」や「エンゲージメント」を高めるためのDXを同時適応することが必須だと思います。
このように考えると、DX投資の本質は、業務効率化と業務価値の最大化を同時実現することになると思います。この逆説的なものの同時実現を考えた投資は、真の競争優位性を生み出すと思います。