COLUMN
SWX総研
ワクチン接種のスピードが上がり始めてきました。企業内の接種が加速することで、年内には多くの人がワクチンを打っている状態が作れそうです。
そのようになると、短期的(夏―秋)には外食産業を中心とした制限は緩和されることになり、営業の時短要請や酒類の提供禁止も解除されることになります。そうなると、一気に外食に行けなかった人たちのニーズは爆発し、多くの人が「外食を楽しむ」ことになります。
この時までにやるべきことは、ニーズに対応できるための「人の採用と育成」になります。現在、外食で働いているアルバイト・パートスタッフは、営業時間の時短要請や売上減少によって、1店舗で働く時間が制限され、1人が3・4店舗(企業)を掛け持ちしている状態にあります。各社の顧客ニーズが回復すると、おそらく2・3店舗(企業)はアルバイト・パートが辞められることになります。すでに、夏以降に主軸で働く店を選ぶスタッフも出てきていると思います。
それを分かった上で、今からスタッフ育成やマネジメント、処遇に対して力を入れている企業が、夏以降の「リバウンド人手不足」を乗り越えることができると思います。この短期・ミクロ(虫の目)、中期・マクロ(鳥の目)で視点を切り替えて経営をすることができる店長、SV、経営陣がいる企業は、アフターコロナを乗り越えることができると思っています。
そんなことを考えていた中で、先日、牛丼の「すき家」を展開する外食最大手であるゼンショーホールディングスが、基本給の底上げを示すベースアップ(ベア)の毎年実施を2030年まで労使で合意したという報道がなされました。
※日本経済新聞より
ゼンショーHDの業績を見てみると、21年3月期の連携純利益はコロナの影響で前の期に比べて81%減の22億円となっています。その中での労使合意は特別な意味合いがあると考えるべきです。長期・マクロ的に見れば、少子高齢化で、労働力人口も減少していくことは構造的な問題であり、変えることができない未来です。また、外食産業は大学卒業後の3年以内の離職率が平均5割と他産業と比較しても大幅に上回っています。
中長期的な人手不足になることは構造的に変わらない
外食産業の大学新卒の3年以内の離職率が5割
また、今回のコロナで他外食企業がベースアップ等の待遇改善や労働環境の改善が後手に回ることもあり、ここで30年までベースアップを約束することで、他社と比べて圧倒的に安心して働ける環境として受け入れられるのです。そして、10年に渡っての賃金の上昇が約束されれば、従業員は将来設計が立てやすくなり、離職率の低減にも寄与することになるでしょう。
まさに、中長期的な視座を持って、経営をしている企業だと感じました。この決断を今実施したことは、短期的には上記で話した、夏場以降におこる「リバウンド人手不足」の対応にもなり、また、中期的に優秀な人材を確保し続ける一手になります。非常に有効な経営の意思決定だったと感じるのです。また、サービス理論的にも、従業員のES向上はサービス力を高め、店舗の競争力を作り出します。従業員の働く環境整備が、従業員満足(ES)を高め、サービス力を向上し、それが顧客満足度(CS)の向上につながり、売上・利益を高めていくと言う「サービス・プロフィット・チェーン理論(SPC理論)」を実践にもつながっています。
最後にゼンショーHDの小川会長兼社長が述べられている以下のメッセージも、本質を突いていると思います。
サービス産業は、国内総生産(GDP)の大部分を占める。
流通・サービス産業の給料が上がらなければ、国内の消費支出は上がらない。
自分たちの社員が、日本の消費者であると言う視点を抜きには、デフレ脱却はあり得えません。私も創業時からずっと伝えてきたことになります。今まさに、従業員は消費者でもあり、会社にとっての一番のお客様であると言う考え方を持って、関係性を築き直し、経営をしていく必要があると思っています。