COLUMN
SWX総研
今年は、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)元年と呼ばれる年になるかもしれません。
コロナの影響でどんな業界も急速なデジタル化を迫られ、あらゆる広告メディアに「DX」の文字が踊りました。しかしその結果、「目的の無いDX」が語られる危険があるのではないかと思っています。
DXとは何らかの目的を実現するために、テクノロジーを活用することを言います。よって、DXは「目的」ではなく「手段」であり、自社で解決したい課題または叶えたい願望がなければ、単なるデジタル投資になってしまいます。例えば「紙で行っている業務をデジタル化する」というのは、果たしてDXなのでしょうか?私はそうは思いません。なぜなら「『紙』を『デジタルツール』に替える必要性」が、現場の抱える「問題」や「実現したい願望」抜きに語られているからです。
私たちが考えるサービス産業のDXとは、「店舗における顧客体験(CX)を向上させるために、従業員の能力を拡張すること」だと思っています。「サービス」は店舗に来店されるお客様と従業員との間で生産されます。よって従業員が「サービス」の付加価値を高めるため、お客様に新たな体験価値を提供することが店舗でより重要になってきます。なぜならコロナを通じて変化した「ニューノーマル」な社会では、消費者と店舗の接点が確実に減少するからです。消費者は置かれた状況によってオンラインとオフライン(店舗利用)を自由に使い分けることが前提になりました。よって、店舗は限られた顧客接点で、ユーザー体験を最大化させることで「選ばれる店舗」になることが求められるのです。
では「ニューノーマル」時代の「選ばれる店舗」になるためのDXとは何でしょう?
例えば、店長やマネジャーの物理的な移動の制限を克服し店舗をマネジメントすることが課題と設定すると、テクノロジーを活用することで「空間」を超えたコミュニケーション(人間の発信「口」と受信「耳」の機能の拡張)を可能にすることで解決できます。チャットツールの導入やBYOD(個人のスマホ等の活用)を導入することで、アルバイトスタッフの一人ひとりとまでITで繋がり、店長やマネジャーが店舗にいなくても、コミュニケーションは可能になります。また、従業員個々人とITで繋がっていることは、重要な情報をリアルタイムで瞬時に全員に伝えることができ、すぐさま店舗で実行に移すことができます。それにより価値ある情報を漏れなく届けることができるようになり、店舗でのお客様への接客の質、つまり「サービス品質」が向上します。また、臨店業務で同時に管轄の複数店舗の重点販売商品を見たいという願望を叶えるのであれば、店舗に「クラウドカメラ」を設置することで臨店せずに遠隔から、商品や売り場を同時に確認することができます。これは、人間の「目」の機能の拡張と言えます。このように、人間の物理的な制約をテクノロジーの活用で克服することで、従業員に「今までできなかった仕事の仕方や体験」を提供し、ひいてはお客様へのサービス提供価値を高めることが可能になります。
サービス産業では特に、非正規雇用のアルバイト・パート社員が多く、一人ひとりにまでデジタルデバイスが配布されておらず、店舗に1台のPCで多くの情報を処理しているのが実状です。しかし、店舗で最も重要な顧客接点を担っているのは彼らです。彼らの能力の拡張が、店舗でのサービス提供価値を高めるはずです。また、労働集約的な産業だからこそ、 IT活用による彼らの能力の拡張こそ、サービス産業の業務効率化・付加価値向上につながり、店舗の実力を底上げすることに繋がると確信しています。