COLUMN
SWX総研
先月、店舗サービス業のDXの方向性として、「リモートマネジメント」という新しい概念を発表させていただきました。パートナー企業でクラウドカメラ最大手のSafieさんと一緒にスーパーマーケットオオゼキ様での実証実験を行い、そこで得られた効果が、売り場のマネジメントにおいて、有効な方法であることが分かったからです。
実は今回の実証実験は、2つの方法で実施していました。
プレスリリースしたクラウドカメラを用いた実験以前に、弊社の店舗マネジメントアプリ「はたLuck®︎」だけを使ったある実験を行なっていたのです。当時、従業員の皆様にはすでに、ご自身のスマホにアプリをダウンロードしていただき(いわゆるBYOD)、「はたLuck®︎」上で仕事の指示や報告をするなどにご利用いただいておりました。その中で主に業務連絡等に使用するコミュニケーション機能のひとつである「連絡ノート」を活用して「売り場自慢」という取り組みを始めました。この取り組みは、オオゼキ様社内でも評価が高く、実験参加者からも多くの好評価をいただきました。今回は、BYOD活用だけでできる「リモートマネジメント」に着目してお話したいと思います。
「売り場自慢」という取り組みについて
担当者の投稿・フィードバック例
※画像はイメージです。
青果売り場の担当者は毎日、以下の内容を「連絡ノート」上で店長と管轄のGM(ゼネラルマネージャー:複数店舗を管轄する指導者)に報告することにしました。
① 今日は何を売るのか
② どんな売り場を作るのか(陳列した売り場の写真を添付)
③ その商品の売上目標
②に対し、GMと店長はそれぞれの評価をコメントや「👍いいね」マークで5段階評価をします。また③について実際の売上がどうだったかの結果もフィードバックされます。
各店舗の投稿は同じGMが管轄する8店舗の青果売り場の従業員約60名全員から見られる仕組みになっており、最初はその手間や他の店舗の担当者から見られることに対し不満も出たそうです。しかし他店舗の投稿に触れるうちに「自身の売り場作りの参考になった」など、ポジティブな意見があがるようになり、店舗を横断したコミュニケーションが取れるようになったそうです。
結果として「売り場自慢」の取り組みの成果は以下の通りです。
●GM・店長から毎日フィードバックをすることで、売り場の完成度が高くなった(基準がすり合う)
=売り場の完成度向上は、売上向上に繋がる
●GM・店長から毎日フィードバックをもらえることで、臨店以外に売り場の指導できる回数が多くなった
=臨店することだけが、店舗マネジメントでは無いことが分かった
●「売り場自慢」を投稿することで、従業員の対象商品を意識した行動が変わった
=一人ひとりの売上に対する意識が高まり、売り場作りのスキルが上がった。
他店舗スタッフにも見られているということがモチベーションにもなっている。
また、この取り組みを通じて最も変化があったこととして店長が語ってくださったのは、「毎日の売り場作りが作業化していたのが、『売り場自慢』に投稿するために、毎朝売り場作りの話し合いが行われるようになった」ということと、「GMからのフィードバックと売上目標の達成が、日々の小さな成功体験につながり、従業員一人ひとりの自信に繋がってきている」ということでした。
GMのマネジメントも変化しました。これまでの臨店や電話で店長への1:1の指示・マネジメントが中心の仕事の仕方から、「売り場自慢」を通じて8店舗の青果部門60名に一気にフィードバックを送れるようになり、売り場づくりに対する自分自身の「仕事の基準」を明確に発信できるようになったことです。それを毎日繰り返すことで、その「仕事の基準」が浸透していき、売り場に表現されてくるようになったそうです。日々の小さな成功体験の積み重ねが、従業員の力を底上げすることにつながったようです。
この結果を受けて私は、デジタルを通じた店舗のマネジメントの革命が起きたと感じています。
「売り場自慢」のような BYOD でITツールを活用した取り組みも、立派な「リモートマネジメント」と言えるのではないでしょうか。また店舗サービス業のDXにおいて、“無人店舗やAIを活用した大規模投資が必要だ”と思しき情報がメディア受けする中で、多くの店舗サービス業の企業が最小限の初期投資で今すぐにでも始めることができて「店舗の底力」をつけさせることができる施策だと言えます。
まさに、デジタル化によって、従業員一人ひとりの力を増幅することができたと思っています。それが店舗の実力を確実に底上げし、自ら判断し、行動できる人材づくりに繋がると思います。それが、リモートマネジメントの真の価値だと思っています。