COLUMN
SWX総研
先週、久しぶりにあるホテルに宿泊して旅行を楽しんできました。
こちらのホテルは昨年も家族で宿泊したところで、今回はリピートになります。なぜこのホテルにリピートしたのかというと「旅行をしようと思うけど、どこに行きたい?」と5歳の子供に尋ねたときに「スタッフのAさんに会いに行きたい!」という返事が返ってきたからです。
どこかの「場所」や「何かを食べに」行きたいではなく、Aさんという「人」に会いに行きたいと言うのです。
Aさんは、そのホテルで子供向けのスキー教室のインストラクターをしつつ、ホテルの敷地内にあるアスレチックのサポーターをされている方でした。子供にとっては初めてのスキーや、木登り・アスレチックでの遊び方を教えてくれた人になります。また、夏に宿泊するとAさんは、カブトムシの捕まえ方を教えてくれた人であり、とうもろこしの収穫を一緒に楽しんだ人になります。子供にとって、本当に楽しい時間を作ってくれたのがホテルスタッフのAさんだったのです。
このホテルは、ほとんどのスタッフが正社員で運営されており、1人のスタッフが1日の中で様々な仕事をこなす”マルチタスク化”が進んでいます。派遣人材やアルバイトを多く採用し、固定人件費を最小化するホテルが多い中で、正社員をしっかりと採用し、定着化・戦力化して、サービスレベルを維持向上に努めているところが違いになります。
たとえば宿泊した夜に入ったレストランのホールスタッフの女性が、翌日の午前中はチェックアウト後の客室の清掃をしていました。このように、多くの正社員を抱えてもそれぞれがマルチタスクをこなすことで、労働生産性を高めているのです。また先ほどのAさんのように、地元をよく知るスタッフが顧客接点を担うことで、その土地ならではのサービスを提供することができます。
このようにエンゲージメントの高いスタッフが作り出すサービスは、子供とその家族の体験価値を高め、「また行きたい!」と思わせる「感動体験」を提供することができるのです。
一方、ホテル業界を見渡すとあらゆるものがiPadなどを使用した業務になっており、デジタル化が進んでいるという印象を受けます。レストランの予約、注文履歴、温泉の混雑状況の可視化、スタッフ教育、シフト作成など、業務効率を上げるためにかなりの投資が行われています。このデジタル化によってあらゆる業務を可視化しているからこそ、マルチタスク化ができているとも言えます。デジタルで業務内容や時間を可視化すること、そして最適な人員配置でのサービス提供を可能にするからこそ、感動体験を提供することにつながっていくのです。
しかしそのデジタル化が、まだまだ「省人化」だけを目的とした活用の域を出ていないと感じます。本当のデジタル化、すなわち「DX」とは、このホテルのように「お客様に『感動体験』を提供する」ために活用されるべきだと改めて感じます。今日、多くの企業がDXサービスを提供していますが、ここを意識する企業やお客様がどれくらいいらっしゃるでしょうか?
デフレ時代には、人件費を安く抑える「省人化」にデジタル技術を活用することが目的になりがちでした。しかし物価や人件費が上がるこれからの時代には、付加価値を高めるための業務効率化と感動体験を提供するということをいかにして同時に実現するかが求められていると思います。
皆さんも、自社であるべき「本来の業務は何か?」その業務を果たすために何をすれば良いのか?を考え、そのひとつの手段としてデジタル化で業務効率化を進めるとともに、自身のお客様にどんな価値が提供できるのかを今一度考えてみていただければと思います。