COLUMN
SWX総研
円安の進行が止まりません。1ドル=135円(6月24日時点)と、約30年前の水準です。
円安が進むということは、日本の国力自体が他国よりも相対的に落ちている事を意味しますが、この点が、私が思う「日本の抱える構造的問題」です。
今回は、この円安による輸入物価高騰を乗り越えるために必要な考え方についてお伝えしたいと思います。
①従業員の賃金を上げること
相対的に落ち込んでいる日本の国力を上げるためには、産業界全体で取り組んでいく必要があります。それは30年間上がらなかった賃金を日本全体で上げることです。従業員の給与が上がれば、物価が上昇する局面でも購買力を維持・向上させることができます。逆に今、一番やってはいけないことは、賃金が上がらず、物価だけが高騰し、消費者心理の低下を招いてしまうことです。コロナ感染拡大が落ち着きをみせ、これから経済回復に向かう状況に「冷や水を浴びせる」ようなことをしてはいけません。よって、産業界全体で積極的に賃金を上げていくことが重要です。
②利益が出るビジネスモデルへ転換すること
当然ですが、賃金を上げることで営業利益は減ってしまうため、賃金を上げることを躊躇してしまいがちです。しかしそうでもしなければ結局、退職者が出ることになると思います。なぜなら、今の賃金では生活ができないという従業員が多くなってしまうからです。やがて企業間だけではなく、産業を跨いでの人材の流出が始まります。私たちは、同じ店舗サービス業の中だけで従業員を採りあっている訳ではないので、他の業界が賃金をあげれば、人材はそちらに移っていきます。よって、中期的には賃金をあげても利益が出せるビジネスモデルに転換する必要があるのです。
では、実際にビジネスモデルを転換した企業の事例をご紹介します。
A:食料品併設型ドラッグストア
最近、郊外へのドラッグストアの出店数が増加しています。これまでは、駅近で化粧品と薬に特化したセルフ販売型のドラッグストアが多かったのですが、コロナによってインバウンド需要が蒸発し、主要駅の乗降者数が減少しました。それ以降、郊外型で食料品を扱うドラッグストア業態の出店が加速しているのです。食料品を扱うことで、消費者の来店頻度を高め、来店客に対して、利益の高い医薬品や推奨品を接客販売するのです。ドラッグストアはこのモデルチェンジによって、日常使いのお店になり、食料品のついで買いで日用品や医薬品が売れる構造を作り出しました。業界1位のウェルシア薬局は10%の増収をしています。粗利率は約30%と業界トップになっています。
B:体験価値を提供するリゾートホテル
コロナの影響を大きく受けた業界のひとつとして、ホテル業界があります。しかし、そのような状況下でも1年前から株価を200%以上も高めている企業があります。それは星野リゾートです。地域に密着した「方言での接客」や「地産地消のレストラン」、「子供が喜ぶアクティビティや体験の提供」など、画一化したホテル運営とは一線を画したビジネスモデルを構築しました。最近では1泊30万円以上の宿泊プランを投入したりもしています。
基本的には、1人の人材がマルチタスクで様々な業務(受付やイベント運営、レストランのホールなど)を担当できるようにすることで、従業員の労働生産性を高め、少人数でのホテル運営を可能にしています。また、子供と一緒に参加できるイベントなど、体験価値を高める仕掛けをたくさん設けているため、価格を安く設定する必要がありません。よって、コロナ禍でも積極的に投資を行い、コロナ明けの需要を取れる期待がかかり、株価が上がっていると考えられます。
上記のように、「低価格の訴求」だけではないところに戦いの場を誘導できている企業が実際に勝っています。これまでの事業モデルを延命し、賃金を抑えて低価格を継続することではなく、知恵を絞って事業モデル、サービスモデルそのものを変えていくことが必要です。そうすることで物価上昇局面でも従業員が不安無く、働き続けられる企業にしていくことが一番だと思います。